丸山健二『千日の瑠璃 終結3』五月二日を読む
ー丸山先生がそっと作品に挿入する己の姿ー
五月二日は「私は才能だ」で始まる。自分の家に火をつけたがる子どもは、親を含めすべての大人たちから見放されている。そんな子供に備わった「天賦の才能」が語り主である。
以下引用文。そんな放火しようとする子供に「ライターよりペンを持つべきだ」三度くり返して止めに入る小説家は、黒いむく犬と言い、じろじろ観察するところと言い、メモ帳にすぐメモするところと言い、「質を高めようと奮闘する」ところと言い、丸山先生そのものではないか。丸山先生が語るご自身の姿に思わず微笑ましくなってしまった。
スクーターに熊の仔そっくりな黒いむく犬を乗せてひたすら走り回り
まほろ町の隅から隅までを無礼千万な眼差しでじろじろと観察し
何かに気づくたびにメモ帳を取り出して記載する男、
売れないことを承知で物した著書をよしとしながらも
もっと質を高めようと奮闘する
さほど文学好きとは思えぬ小説家が
まさにそれだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』57頁)