丸山健二『千日の瑠璃 終結3』
ーよいっちゃんの存在感ー
五月十九日は「私はギプスだ」で始まる。「娼婦の折れた二の腕の骨を固定し 併せて 彼女の心をも安定させている 霊験あらたかなるギプス」が語る。
以下引用文。丸山先生にしては珍しくこの箇所は会話が多い。中でも、この娼婦が発する言葉「よいっちゃんに会いたい」は、不自由なはずの世一への信頼が迸るようで心に残る。
苛立ちが限界に達したところで
「よいっちゃんに会いたい」などと
まったくもって理解不可能な願いを口走った。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』125頁)
以下引用文。やくざ者の青年が娼婦のために世一を連れてくる。だが世一の関心は娼婦からすぐに逸れていく。娼婦のことをすぐ忘れ、モンシロチョウを追いかけてゆく姿に世一の天真爛漫さを思う。
黙って縁側から離れると
モンシロチョウの乱舞に見とれて
それを追いかけ
どこかへ行ってしまった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』125頁)