丸山健二『千日の瑠璃 終結3』五月二十二日を読む
ー生命の律動感ー
五月二十二日は「私は小魚だ」で始まる。「うたかた湖の純白の浜に」打ち上げられた「満身創痍の小魚」が語る。
以下引用文。不自由な少年・世一が瀕死の小魚を拾い上げて、仲良しの盲目の少女の手にのせる。「小魚」というものだと母親に教えられた少女が感覚器官を使って生命を探る姿、応えるような小魚の「ぴちっと」という動き、その動きに「あっ」と叫ぶ少女……どれも生命というものの律動感が読んでいる者の心にもありありと伝わってくる気がする。
好奇心まる出しの少女は
人差し指を
つづいて鼻を
しまいには耳まで使って
私を把握しようと努め、
そんな彼女のために
私は最後の力を振り絞って
尾鰭をぴちっと動かしてやった。
「あっ」と小さく叫ぶ少女の顔いっぱいに
紛うことなき幸福がみるみる広がって、
そのとき少年は
事切れることを素早く察知して
私を湖へ投げ、
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』136頁)