丸山健二『千日の瑠璃 終結3』五月三十日を読む
ー燃やされるブナの声ー
五月三十日は「私はブナだ」で始まる。
丸山先生を思わせる「いくら住んでもまほろ町に馴染めず さりとてほかの町へ移り住む気にもなれない」作家が、山からブナの若木を庭に移植しようとする。
でも上手くいかない。
五月に落葉樹のブナを移植するには無理があるのかもしれない。
枯れてしまったブナは引き抜かれ、「狙い通りの文章に組み立てられなかった原稿を燃やすための 耐火レンガ製の焼却炉へ投げ入れ」られてしまう。
そんなブナの最後の声を、丸山先生の内なる声のようにも思いながら読んだ。
灰と化してゆく途中で私は
火が爆ぜる音を利用して
そんな彼に説論を加えてやり、
だらだらと読み継がれる
安直な国民的な作品よりも
百年後二百年後に日の目を当たるような
画期的にして先鋭的な作品を物するようにと言い、
とはいえ
果たして心耳に届いたかどうかは定かではない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』169ページ)