丸山健二『千日の瑠璃 終結3』六月一日を読む
ー世一の心とはほど遠いところにー
六月一日は「私は緑野だ」で始まる。
以下引用文。
世一の眼前に広がる「緑野」。
その「緑野」を眺める世一の心。
両者の心持ちとは遠いところにいる自分自身に気がつく。私は「それがどうしたなどと憎まれ口を叩く鳥」なのだなあと思い、ふと悲しみを覚える。
私にしても
はたまた世一にしても
ひたすら自分自身でしかあり得ないものを探し求め、
偽りの生を本物の生から区別し
真理に至る近道を通り
幸運の星に恵まれたものと思いこみ
美しい時代をくぐり抜けているものと信じこみ、
だからこそ
おのれの寿命を数えたりせず、
それがどうしたなどと
憎まれ口を叩く鳥は
一羽もいない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』177頁)