丸山健二『千日の瑠璃 終結3』六月二十七日を読む
ー骨太な幻想文学でもある丸山作品ー
六月二十七日は「私は亡霊だ」で始まる。うたかた湖で釣りをしながら息絶えた世一の祖父が亡霊となって、朝早く一家が朝食をとっている場に現われる。
丸山作品の「亡霊」は、もう一つの世界とこちら側の世界がクロスした瞬間に現われる存在に思える。亡霊が訴えているのは不気味さではない。生のエネルギーがより純化された形で、もう一つの世界から映し出されている気がする。
意外と丸山作品は、幽霊とか不思議な存在が出てくる幻想文学でありながら、骨太さゆえ大半の幻想文学ファンからスルーされているのが惜しい気がする。
ようやく騒ぎ始めた生者にかまわず
私は燦然たる光の中を通り抜けて
崖っぷちの揺らぎ岩のところまで進み出ると
真下に広がるうたかた湖をまじまじと見つめ
そうしているとなんだか釣りがしたくなり
思わず知らず竿を振る仕種をくり返した。
高々と跳ねる巨鯉がはっきりと見え
やや遅れて届いた水音を感知したとき
私は戸口に茫然と佇んでいる四人の方をおもむろに振り返り、
主として世一に向かって手を振り
それから
壮大な動きで渦を巻き始めた光に溶けて消えた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』281頁)