丸山健二『千日の瑠璃 終結3』七月一日を読む
ー不自由、自由を象徴するものー
七月一日は「私は雲だ」で始まる。「まほろ町立病院のベッドに横たわった患者たちが 各々自分しか見ていないものと思いこんで仰いでいる」雲が語る。
以下引用文。入院患者が眺める雲ではじまって、「自由の利かない」世一の体の動きを「のろのろと」「倦怠に塗りこめられた」と表現しながら視点が移る。
そのあと、「小さなつむじ風」に「羽音によく似た風音」「各病室の窓を軽く叩いて回る」と動きを託す。
やがて世一が羽ばたく動作をしてみせたことで、雲まで届くつむじ風が発生する……。
不自由から自由へ……という流れを、病院のベッドの患者の視界、世一の動き、つむじ風、竜巻に象徴した書き方が心に残る。
私とはすでにして相識の間柄にある少年世一が
病院の外壁を掌で触れて楽しむしかない
あまりに自由の利かない体を持て余しながら
のろのろと世間の外れを横切って行き、
倦怠に塗りこめられたその間に
小さなつむじ風が生じて
羽音によく似た風音が
各病室の窓を軽く叩いて回る。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』296頁)
そうした快活な声が集まったところで
世一はだしぬけに羽ばたきの動作に転じ、
そのせいかどうか
ほとんど同時に新たなつむじ風が発生し、
みるみる勢いを増して
ほとんど竜巻の様相を呈し
私のところまで届いてしまう。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』297頁)