丸山健二『千日の瑠璃 終結4』八月二日を読む
ーどちらも真実ー
八月二日は「私は紅炎だ」で始まる。太陽の「紅炎」(こうえん)が語る。
以下引用文。「紅炎」が世一とオオルリに向けて送る声援。相反するメッセージが響き合って、自然とこの世にある生の意味が何の矛盾もなく心にストンと落ちてくる。
存りのままでいいという
そのままでいけないという
そんな背理の見解を込めた
熱い声援を送りつづける。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』23頁)
以下引用文。世一の父親に「おれの代わりにどんどん燃えてくれ おれは燃えることができんのだ!」と喚き散らかされると、宇宙の様子までもが変化してゆく。世一の父親の絶望がどこかユーモラスに書かれている。
紅炎の世一とオオルリへの矛盾した思い。宇宙を歪める世一の父親の絶望。どちらもこの世の真実なのだなあと思う。
ところでこの箇所は、引用箇所以外は難しい、初めて知る漢字が結構多かった。なぜなのだろう。引用しても、変換が難しいかも……という安易な理由でやめてしまったが。
その途端
辺り一帯に異様な悲壮感が漂い始め、
汲み尽くしがたいはずの
無限説が濃厚の大宇宙が
たちまちにして下降と凋落の世界に成り下がってゆくように思え、
加速度的に膨張の一途を辿っていた空間のそこかしこに
ひび割れが生じてゆくように感じられ
存在の意味を問う声すら押し潰されそうになって
私は慌てて勢いを増す。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』25頁)