丸山健二『千日の瑠璃 終結4』八月二十四日を読む
ーこんな鋭いベッドに寝かされたらー
八月二十四日は「私はベッドだ」で始まる。「少年世一のこの上なく貧しい体と この上なく豊かな魂をしっかりと支えて止まぬ 町立病院のくたびれ果てた」ベッドが語る。
以下引用文。ベッドが語る世一の容体は「現世が翳り」「時空間の歪み」と抽象的な言葉を使っているのに、不思議と世一の苦しそうな姿が浮かんでくる。
この患者のほうが
一日くらい早く死んでしまう可能性は濃厚で、
昏睡状態に陥った世一の周辺は
現世が翳りを見せ、
そこだけ時空間の歪みが
はっきりと見て取れた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』111頁)
以下引用文。悲しみつつ、何かと理由をつけて世一のそばを離れていく医者や看護師、家族の心境をユーモラスに、皮肉を込めてベッドは語る。こんなベッドに寝かされたら、一日でも早く退院したくなりそうだ。
例によって厄介な患者が私に押しつけられたものの
それはいつものことで
この場合だけが特殊な状況というわけではなく、
死からまだ離れている生者たちとしては
こうした場面から逸早く逃れたいだけなのだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』113頁)