丸山健二『千日の瑠璃 終結4』八月二十八日を読む
ー家族の本音ー
八月二十八日は「私はカセットテープだ」で始まる。世一の姉が瀕死の弟のためにオオルリの鳴き声を吹き込んだカセットテープが語る。
以下引用文。我が子・世一の命がおそらく長くはないと知った母親の残酷な反応を静かに赤裸々に描いている。
疲労しているはずの目には
わが子の命が解き放たれる日が間近いことを確信する
なんとも言いようがない
鈍い輝きが見て取れた。
そして彼女は
重荷でしかない病児を娘に任せ、
ひと眠りするために
さもなければ
厄介者が消えたあとの日々を夢想して楽しむために
町場より涼しい丘の家へと帰って行った。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』127頁)
以下引用文。姉の真意を見つめるカセットテープの言葉が印象的である。ただ百年後の人がこの文を読んだら、たぶんカセットテープで躓き、文意が取れないかもしれない。百年後もおそらく変わらない自然が語り手なら理解してもらえそうだが、物に語らせる危うさはあるのかもしれないと、ふと思った。
微動だにしない弟を相手に
姉はこう弁解し、
青い鳥のさえずりの力を借りて命を救おうとしただけであって
断じてその逆ではないと言い張り、
その間私は
沈黙によって疑念を深め
果たして本当にそうなのかという
声なき声を連発していた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』129頁)