丸山健二『千日の瑠璃 終結4』八月二十九日を読む
ー弱い者に視線を向けるとき束の間ひとは真人間になるー
八月二十九日は「私は見舞いだ」で始まる。瀕死の世一を病院の外側から案じる盲目の少女の見舞いが語る。
以下引用文。少女に病院までの道を訊かれた物乞い、修行僧、青年やくざの反応を「おのれの立場を束の間忘れ去り ただの人間に戻って」という文に、どんな人間にも宿る弱い者への優しい視線を見つめる作者を感じる。
道を教えたあとで
相手が盲人であることに気づいた三人は
それぞれにおのれの立場を束の間忘れ去り、
ただの人間に戻って
相手が間違いのない方向へ進んで行くかどうかを
しばしば見守っていた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』132頁)