丸山健二『千日の瑠璃 終結4』八月三十日を読む
ーどこかとぼけた語り口ー
八月三十日は「私は奇跡だ」で始まる。世一の姉がこっそり布を被せて病室に持ち込んだ籠のオオルリが引き起こす奇跡が語る。
全体にどこかとぼけたような、ユーモラスな雰囲気のある箇所である。そういう風にしないと、いかにも取ってつけたような奇跡になってしまうからなのかもしれない。
最初、オオルリが「ベッドに張り着くようにして横たわっている人間」が世一であることに気がつき、地鳴きを繰り返しても「カセットテープのさえずり程度の効果」しかなく、「私の出番など どこにも在りはしなかった」。
世一の姉が屋上に出て恋人の家を眺めているときに、奇跡は起きる。姉が戻ってくると「なんとベッドから離れ 晴れ晴れとした顔つきで歩き回って」いる。
以下引用文。何が起きたのか作者は語らず、以下のようにとぼけて締めくくることで、読み手に想像させて楽しませているのかもしれない。
平然たる態度のオオルリは
練り餌をついばむ振りをして私のことを飲み下し
手のうちを完全に隠してしまった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』137頁)