丸山健二『千日の瑠璃 終結4』八月三十一日を読む
ー想いを色々な表現に託してー
八月三十一日は「私は回復だ」で始まる。
以下引用文。回復した世一が吹き鳴らす口笛の「瑠璃色のさえずり」という表現に、生命が戻ってきたという感じが込められている。
患者の口笛による瑠璃色のさえずりが
素晴らしい調子で響き渡るたびに
気高い音波が
体内に僅かに残っている
ろくでもない最近と
悪い毒素を排除した。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』139頁)
以下引用文、世一の回復を喜びつつ、すぐに元々の病気は回復していないという現実に戻されてゆく母親の心を足音に託しているのが心に残る。
その足音は初めのうちだけ軽やかでも
階段を下って行くにつれて
いつものあまり幸福とは言えぬ境界線をさまよう者の気配を
どんどん濃くしていった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』141頁)
以下引用文。医師にオオルリの呼び名を訊かれた世一。元々の病は治ってはいない……ということを「限界に達し やがて煮詰まってしまった」と書いているところが面白い。
すると
名前などは付けていないと答える世一のなかで
私はほぼ限界に達し
やがて煮詰まってしまった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』141頁)