さりはま書房徒然日誌2024年10月5日(土)

丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月二日を読む

ー爪弾きにされている者達なのに自由で美しくー

九月二日は「私は背中だ」で始まる。ようやく退院した世一をおぶって連れ帰るのは、刑務所を出所した後緋鯉を飼って暮らす叔父。その背中が語る。
以下引用文。丸山先生が描くこの場面は、刑務所に入っていた叔父、体も心も不自由な世一、物乞い……と爪弾きにされている人物を描いているのに、なんて自由でのびのびしていることか……自然もそうした人間を包容してただただ美しい、と思った。

ぽこんと突き出た腹を
   太陽の方角へ向けて
      桟橋に寝そべっていた物乞いが
         世一に気がつくと手を振り
            それに応えて世一も手を振り返し、

その間に
   いよいよヒグラシが鳴き始めて
      陽光の輝度が半減し、


ひんやりした一陣の風が
   人情の機微に触れながら
      松林を吹き抜けていった。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』148ページ)

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