丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月二日を読む
ー爪弾きにされている者達なのに自由で美しくー
九月二日は「私は背中だ」で始まる。ようやく退院した世一をおぶって連れ帰るのは、刑務所を出所した後緋鯉を飼って暮らす叔父。その背中が語る。
以下引用文。丸山先生が描くこの場面は、刑務所に入っていた叔父、体も心も不自由な世一、物乞い……と爪弾きにされている人物を描いているのに、なんて自由でのびのびしていることか……自然もそうした人間を包容してただただ美しい、と思った。
ぽこんと突き出た腹を
太陽の方角へ向けて
桟橋に寝そべっていた物乞いが
世一に気がつくと手を振り
それに応えて世一も手を振り返し、
その間に
いよいよヒグラシが鳴き始めて
陽光の輝度が半減し、
ひんやりした一陣の風が
人情の機微に触れながら
松林を吹き抜けていった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』148ページ)