丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月四日を読む
ー身近な自然の美しさー
九月四日は「私はトマトだ」で始まる。退院した世一が自宅の庭のトマトからもぎとって食べる黄色い実が語る。
以下引用文。世一がもぎとったトマトをかじる場面。丸山先生の文は、こういう身近にある自然を描くとき、万物の真理がパッと開くような美しさがあるなあと思う。
ともあれ死なずに済んだ世一は
食べるのを中断して
私のことをしげしげと見つめ直し、
日にかざして
色の鮮やかさにうっとりと見とれる。
そのついでに
おのれの手を流れる血液の赤と
太陽の金色を半ば夢見心地で眺めながら、
二階の部屋の
さながら天国の門のごとく開け放たれた窓から
惜しげもなくばら撒かれる
青い鳥のさえずりにじっと聴き入る。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』155頁)