丸山健二『千日の瑠璃 終結4』九月二十九日を読む
ー心に残る象ー
九月二十九日は「私はサーカスだ」と、まほろ町を訪れた「二流にも属さぬ お粗末なサーカス」が語る。
以下引用文。お粗末なサーカスの象の哀れな様子が心に残る。「夜になると涙を流していた」という文が、象の佇まいや目を思い浮かべると、しっくりくるものがある。
その象にしても
かなり老いぼれて
耳はずたずたに破れ、
頼みの象使いに出奔されてしまったために
今では単なる客寄せの道具に成り下がり、
それか知らずか
夜になると涙を流していた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』254ページ)
以下引用文。サーカスの観客席から青い鳥の声を発しながら大はしゃぎで象を眺める世一。「疑問符の形」という表現が、何に対する疑問符なのだろうか……と考えてしまう。
彼の動きを真似て悲しい巨体をさかんにくねらせたかと思うと
まだ誰からも教えられていない
まるめた鼻を疑問符の形にするという
前代未聞の新しい芸を
さも得意げに披露したのだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』257ページ)