丸山健二『千日の瑠璃 終結4』十月七日を読む
ー最期の瞬間に垣間見る緑の火ー
私は火だ、
不幸にして生後日ならずしてあっさり死んでしまった嬰児が
短い滞在期間であったこの世を離れる
その最期の瞬間に垣間見た
緑がかった火だ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』286ページ)
私の父は亡くなる前日だったろうか、病院の個室の白い壁を見て「綺麗な緑の光だなあ」と晴明な意識の中で言い、何も見えていない私の様子に悟った顔をした。
あのとき父が見た緑の光とは薬の副作用なのか、あるいは彼岸の世界が見えていたのだろうか……。
それとも丸山先生が「そして私は 周辺の森や林で造られた酸素を 精根込めていっぱいに摂りこみ」と書かれているように、現実世界が父を送り出そうと見せてくれた火だったのだろうか。
いずれにしても、この世を去る直前、私には見えない、なんとも美しい緑の光に心打たれていた父の顔の安らかさ、純真さをふと思い出した。