さりはま書房徒然日誌2024年12月14日(土)

丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より十一月十九日「私は耳だ」を読む

十一月十九日は「私は耳だ」と、世一の友達である盲目の少女を支える鋭い耳が語る。
「耳」はリゾート開発計画に浮かれ騒ぐ人々の声をとらえ、その喧騒とは対照的な世一がたてる物音もとらえる。
以下引用文。
少女の耳がとらえる世一の気配は、どこか妖精じみた存在で、開発だの金儲けとは無縁である。そしてどこか温かさがあり、痛みを共感してくれる存在である。
こうした在り方こそ、丸山先生が人間に求めるものなのではないだろうか?

この私が聞きたいのは
   その手の音声ではなく、

見掛けはともあれ
   優しい心根の少年世一のゆったりとした足音であり
      彼が没我の境に入ったときに吹き鳴らす口笛であり、

不規則でも好ましい息遣いであり
   体内を経巡る血液やリンパ液の音であり、

ときとしてきしきしと軋む
   胸の痛みの音である。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』61ページ)

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