丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より十一月二十日「私は仮面だ」を読む
十一月二十日は「私は仮面だ」で始まる。夢想家の域に達しつつある青年は、湖畔でひとり醜悪をテーマに踊る。その踊りのために作った仮面が語る。
仮面は青年に「刹那の夢さえも与てやることができず」、ついには「おまえはおまえでしかない」と言い放つ。
以下引用文。仮面をもらった世一の「おれはおれでいいや」という言葉に丸山先生らしい生き方の理想を見る。
最後の「〈醜悪〉の一から十までが 粉々に砕け散った。」という箇所、「一から十までが」という風変わりでしつこい表現も、「粉々に砕け散った」という表現も心に残る。
ふだん仮面をつけて生きている自分を感じ、その仮面を壊してみたい……そんな己の願望にふと気がつく。
昼夜のなかに残された少年は
しばし私を眺め
被ろうとして寸前で止め
「おれはおれでいいや」と
聞き違いでなければそんな意味の言葉を漏らし、
渾身の力を込めて
私を松の根元に叩きつけるや
〈醜悪〉の一から十までが
粉々に砕け散った。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』65ページ)