さりはま書房徒然日誌2025年1月8日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より十二月十日「私は自転車だ」を読む

十二月十日は「私は自転車だ」と「自転車」が語る。
「自転車」には乗ることが出来ない不自由な身体の世一。それでも自転車を見て捉えることが出来ない盲目の少女に、自転車なる存在を伝えようとする。
以下引用文。少女の手が自転車の後輪をまわし、その音に耳を傾ける場面。映画であれば、一瞬で終わる場面かもしれないが、言葉にするとこんなに広がりが生まれるのかと思った。

そこで私は
   少女のために何かしら特別な音を発してやりたいと考え、

まずは
   風によって生み出される波の音と
      波が造る風の音を真似てやり、

それに加えて
   湖底から途切れ途切れに立ち昇ってきては水面で弾ける
      泡の音を巧みに織り交ぜてやった。

ついで
   天魔に魅入られたとしか思えぬ病児の口笛を添えながら
      信じるに足る未来や
         ささやかながらも輝ける希望や
            幸福の予感やらを
               千変万化する波動として
                  少女の異常に発達した聴覚へ
                     強弱をつけながら届けた。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』145ページ)

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