丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より一月六日「私は露だ」を読む
一月六日は「白一色の屋外を占める寒気と 電灯色に染まった屋内の暖気が鬩ぎ合うことで 窓ガラスに結ばれる」露が語る。
窓一枚を隔てた寒暖の差の激しい世界の感じ方は、やはり雪国に暮らす丸山先生らしい気がする。
以下引用文。湖畔の別荘に追いやられた狂女の目に映る窓の外。
窓の露に何かを映して見る……という場面はあるような気もする。
だがそこに自分の名前の字を書いて、その合間から窓の外を見る……という丁寧な設定が、狂女の名前の「光」を思わせる風景、光とは対照的な陰惨な風景、両方が存在する世界を印象づける。
そんな彼女は今
人差し指の腹で私をそっと撫で
音でも訓でも読める唯一の漢字
当人の名前にも使われている〈光〉という文字を書き、
ぐにゃぐにゃに歪んだその文字のなかを
雅な舞を演じつづける白鳥たちと、
凍死の危険を孕んだ
明日なき立場の物乞いと、
三千世界における存在の基準と
生命力はともかく
生気の奔出がただ事ではない、
青いコートと白いマフラーという
そんな装いの少年が
密やかによぎって行く。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』253ページ)
