丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より三月二十九日「私は介入だ」を読む
リゾート開発に反対する元大学教授。
彼の家にしつこくかかってくる深夜の無言電話。
それに応対する元教授の思いがけない様子に、「人間とは……」と考えてしまった。
パジャマ姿でベッドの縁に腰を下ろし
電話のベルが鳴るたびに受話器を取ってはすぐに元へ戻すといった
あまり馬鹿げたことを延々とくり返す際の
彼の眼の輝きときたら、
もはや湖畔の別荘に引き籠もって余生を送り
意に適わぬことが多かった半生を振り返るしかない男の
それではなかった。
溌剌として若やいだ声で
「くるならこい」と言うとき
彼らしくもない不適な笑みを満面に湛え
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』