さりはま書房徒然日誌2025年5月25日(日)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より三月三十日「私は風呂だ」を読む

長い間入浴を拒んできた物乞いのために、貸しボート屋の親父が川の中洲に拵えたドラム缶の風呂が語る。

入浴という日々の営みの中にも、身綺麗にして「面白くもなんともない普通の暮らし」に引き戻されてしまう危険を感じているのだなあと思いつつ読む。

ただ入浴という営みは、普通の暮らしから解放してくれる一瞬でもあるなあとも思う。川の中洲のドラム缶風呂に入って浮世を忘れてみたいものだ。

やがて私は
   彼が忌み嫌っているのが私そのものではないことに気づき、

恐れていたのは
   私がきっかけとなって
      真っ当と言えば真っ当な
         面白くもなんともない普通の暮らしへと、

働いて
   妻子を養うだけの生活へと
      引き戻されるかもしれないということだった。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』185ページ)

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