丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十日「私はガラス窓だ」を読む
「あまりぱっとしないドライブインの ひびだらけのガラス窓」という如何にも寂しい存在が語るのは、中で食事をしている世一の家族。
その様子を覗きこむ黒いむく犬を連れた丸山先生らしい小説家。
以下引用文。世一と黒のむく犬の視線が合う瞬間。双方の純粋無垢が感じられて好きな箇所である。
また「音に敏感に反応して揺れる玩具を思わせる」という言葉に、世一のどこか浮世離れした姿と純な眼が浮かんでくる。
音に敏感に反応して揺れる玩具を想わせる
なんとも奇妙な動きをするその病児は
熊の仔にそっくりな犬を
見るともなしに見ており、
両者のあいだに何も介入しておらず
光も影もなく
この私ですら
存在していない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』227ページ)