さりはま書房徒然日誌2025年6月11日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十二日「私は掛け軸だ」を読む

年老いた芸者が購入した掛け軸。
掛け軸の世界を懸命に眺める芸者。
その目に映る掛け軸の中の世界を語る言葉のみずみずしさ。


掛け軸は、そんな彼女のために季節を変え、戦死した夫を甦らせる。

掛け軸に想いを馳せる言葉の豊かさ、そっと滑りこむ戦死した夫の切なさがわずかなページに、壮大な物語を紡いでいる。

彼女は今
   山頂から雲海を望み、

下露に濡れた山道を散策したり
   咲き初める桃の花の下に佇んだりする
      そんな幸福を思い浮かべながら
春光のすべてを等しく愛で、

それから
   これまで自分がくぐり抜けてきた
      濁りに濁った歳月について
         雑感をさらりと述べ、

行人の影も絶えた私の片隅に
   遺髪をそっと埋める。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』236頁


 

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