丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月二十一日「私は頬杖だ」を読む
以前オンラインサロンか講演会のとき、どうやって語彙を豊かにされたのか質問を受けた丸山先生は「哲学書、法律書、物理学の本。そういうものを読んで増やした」と答えていらしたように思う。
そういう分野の本から語彙を増やせるのだろうかと驚いた記憶がある。
だが、そうした語彙で文にしていくと、丸山先生の世界になるのかもしれない……
まほろ町の商人宿に泊まる男の頬杖が語る以下の文にそんなことを思った。
「成人男子の平均を五グラムほど上回る重さの顎」という何だか科学書の文のような一文が、その男の風貌や来し方を物語る面白さがある気がする。
成人男子の平均を五グラムほど上回る重さの顎を支える私は
併せて
一次逃れの姑息な術策のみで世間の荒波をくぐり抜けてきた
恐ろしく長い歳月をも支えていても、
資金調達に馳せ回り
即座の機転に頼って土地を買い漁り
三日後にはもう売り飛ばすというやくざな日々は
今や彼を支える力になり得ていない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』270ページ)