さりはま書房徒然日誌2025年7月1日(火)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月二十四日「私は下界だ」を読む

不自由な世一と全盲の少女が散策するうちに、生まれて初めての郷里の外に踏み出す。その下界が語る

二人の感動を伝えるのに、二人の視点ではなく、感動を向けられている下界の視点で書く……という発想が斬新。
下界の高鳴りを読んでいると、幼い二人の感動がひしひしと伝わってくる。

漢字ではなない「ふたり」という平仮名に仲良く歩く姿が感じられる。
「私のなかの空気」という「なか」も、やはり平仮名ゆえ風が感じられるようで心地よい。


「私ごとき取り柄のない者」「今の今まで 一度も」という大袈裟な言い方が、下界というあり得ない存在をはっきり見せてくれる気がする。

峠を越えたふたりは
   確かにまほろ町の外へ十数歩ばかり出て
      間違いなく私のなかの空気を呼吸しており、

高鳴る心を抑えなければならないのは
   むしろ私のほうで、

なぜとなれば
   私ごとき取り柄のない者が
      そこまで人を感激させたことなど
         今の今まで 一度もなかったからだ。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より283ページ)

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