丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月四日「私はひらめきだ」を読む
ストーブ作りの男が「青い流星がうたかた湖の面に映し出された一瞬に」得たひらめきが語る。
男の恋人である世一の姉は妊娠をしている。二人はなんとか生活を成り立たせようと色々考える。そのひらめきが語る。
「際限なく膨らんでゆくことはあっても 萎んだり 破裂したりすることはない。」とひらめきが己を語る言葉に、希望やらお腹にいる胎児の未来やらが重なってくる。
風鈴を作ろうというひらめきも、風鈴そのものが希望にも、胎児が眠る子宮のようにも思えてくる。
将来の生活設計で頭がいっぱいの妊婦は
ストーヴよりも単価が安いことを気にしながらも
失敗した際の赤字が少なくて済むという理由から
しぶしぶ同意し、
試してみる価値があるという結論の下
私は彼らの子どものために
際限なく膨らんでゆくことはあっても
萎んだり
破裂したりすることはない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』325ページ)