丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月五日「私は巨樹だ」を読む
以下引用文にずっと大町に暮らし、毎日庭の手入れをしている丸山先生だから、こんなふうに巨樹が見え、樹液が絶望のように感じられるのかもと思った。
巨樹と会話をしている世一の伯父は、もしかしたら丸山先生自身の思いを代弁しているのかもしれない。
荒れ野のど真ん中にでんと屹立して
天心に輝く星を指し示す、
幹の傷口から樹液やら絶望やらを滲ませた
孤高の巨樹だ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』326ページ)
「ほんとにこれでいいのか?」と
彼は幾度も同じことを尋ね、
その都度私は
「それでいいのだ」という同じ答えを繰り返し、
つまり
錦鯉のほかに何も求める必要はなく、
さらには
世帯を持つ必要もなければ
子孫を残す必要もなく、
独りでこの地に耐え果てよという
身も蓋もない結論だ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』328ページ)