さりはま書房徒然日誌2025年7月13日(日)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月八日「私は剃刀だ」を読む

山中の草庵にひとり暮らす老人。
剃刀の放つ輝きに、老人の心に甦る過去の記憶。
老人はかつて「どこまでも血なまぐさい雰囲気を有した 元陸軍一等兵」だった。
その記憶と自己嫌悪のせめぎ合いを記した文に、丸山先生にとって大きなテーマの一つ「帰還兵の悲惨」を思う。

げんに彼は
   幽谷に咲く美花を求めて山路を辿る少年が目に入るや
      銃床でもって撲殺した大陸の子どもの断末魔の姿を
         生々しく思い出し、


少年の震える体の動きが
   痙攣しながらたちまち虫の息となった
      異国の子どもたちにそっくりで、


だからといって
   慌てて眼を閉じても間に合わず、


正真正銘の悪行が鮮明に甦るばかりで
   大分薄れていたはずの自己嫌悪が
      津波のごとく押し寄せる。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』341ページ)

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