丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月十三日「私は砂漠だ」を読む
世一の部屋に貼られた観光ポスターの真ん中にある砂漠が語る。
限りある人間の視点で語れば、語ることも限られてくる。
でも、ここでは砂漠が語り手だもの、砂漠に丸山先生の価値観をかぶせることができるのだな、と思った。
人間がポスターを見て、「 」と思った、という文ではとてもこうは書けない。
ただ書き手の心に砂漠にも通じる思いがなければ、こうは書けないのだろう、とも思う。
そうかと思うと
至る所に浄化作用と解毒作用が満ちあふれていることを教え、
この世が生きるに値するという確たる証拠を
あり余るほど示してやり、
あらゆる生命が
その誕生から寂滅に至るまで
気高い意義を具えているいることを知らしめ、
抽象的自我の単なる影法師などではなく
極めて明瞭な意味を有する存在だということを
翻然と悟らせてやる。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』360ページ)