丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月十五日「私は穴だ」を読む
崩れかけた土蔵に住む若者が、突然床下に掘り始めた穴が語る。
土蔵の床下を掘るという何となく不気味な行為も、その穴が「魂ごとつるっと呑みこみ」とか語ると、どこか現実離れしてくる。
この後に若者が感じる安らぎも、納得させるものがある。
そして六日目のきょう
堂々たる骨盤を具えた健康な娘の子宮と比べても
まったく遜色がない私は
若者を魂ごとつるっと呑みこみ、
疲れきった五体を委ねた彼は
手で触られるほど濃厚な闇に包まれて安堵し、
そもそもの始まりから間違っていた歳月の一部始終を
地味豊穣なる土に吸わせてしまった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』367ページ)