丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より五月二十二日「私は前途だ」を読む
「いつまでも北の大地へ飛び立とうとしない白鳥の 暗影漂う前途」が語る。
丸山先生自身が湖にいつまでも残っている白鳥を見て思われたのだろうか……どこかユーモラスであり、人と同じように行動しなくていいのだよ、と語りかけてくれているようでもある。
以下引用文。帰ろうとしない白鳥を語る口調もユーモラスであり、人間の世界を重ねているようでもある。
夜になると
古い桟橋の下で眠り
将来に悪例を残しそうな
実利的な夢ばかり見て、
朝になると
また候鳥の振りをした。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』396ページ)
貸しボート屋のおやじが「ためにならぬ選択」と石を投げて追い払おうとしたところ、物乞いがこう言う。その言葉に思わず納得してしまう。
「ほっといてやれやあ
一年に二度も海を渡るようなしんどい暮らしにうんざりしたんだわあ
きっとそうだよ」
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』397ページ)
最後、人の世の葛藤を見るようでもある。
それに対しておやじは
渡るときに渡らない鳥は
餌をやる価値のない
普通の鳥だと言い返し、
普通の鳥で充分ではないかと言う
物乞いの大声は
山々にこだまして
私への声援と化した。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』397ページ)