丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より五月二十九日「私は勇気だ」を読む
こんな凄い風なら、幼児がさらわれそうになっても不思議ではない気がしてくる。
さながら回り舞台のごとく暗転したまほろ町を
それはもう荒々しくよぎるつむじ風のなかにあって
稚い幼児を庇う
盲目の少女が発揮する勇気だ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』22ページ)
すごい風に立ち向かうのは、盲目の少女、その白い飼い犬、世一という組み合わせも微笑ましくも、清々しい。
「勇気」の存在に気がついた少女の変化……「はたと」「数秒後に」という言葉が、少女の劇的変化を強調している気がする。
するとそのとき
盲目の少女は
はたと私に気づき、
その数秒後に
誰かに頼って生きてゆくしかない
常に何者かに守られて生きてゆくしかない
そんな身の上であるという
残念な立場から
すっと離れられた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』23ページ)
以下引用文。盲目の少女が勇気を出して幼子を風から守って得たもの。そうなのかもしれない。
助けてもらう喜びよりも
助けてやる喜びのほうが
はるかに大きいことを
つくづく思い知ったのだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』24ページ)