丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月十四日「私は交渉だ」を読む
「僧侶とは名ばかりの愛着生死の輩」が娼婦を見かけ、値段の交渉をしようとする。
そんな僧侶から何とか逃れようとする娼婦が世一の名前を必死に叫び声。
弱い筈の世一が強い存在に思え、僧侶が何とも恐ろしい存在に思えてくる皮肉めいた視点。
そして最後「交渉」が「ばらばらに空中分解」というどこかユーモラスな終わり方に、その皮肉が消えていく感じがして救われる。
娼婦は途端に怯んであとずさりを始めたかと思うと
助けを求めるために
「よいっちゃああん!」と叫びながら
波打ち際を行く少年の方へと駆け出し、
その場に取り残された私は
男の舌打ちに打ちのめされ
ばらばらに空中分解してしまった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』89ページ)