さりはま書房徒然日誌2025年9月17日(水)

丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月十六日「私は卵だ」を読む

草の葉の裏に産みつけられた卵。

誰も気がつかない小さな卵も「重力波の影響下にあり」「生と死の順逆を誤ることも」ない。

そんな小さな存在を慈しみ、思いを寄せるところに丸山先生らしさを感じる。

やはりこの小さな卵に気がつくのが、少年世一だ。

卵を問い詰める世一が、この世の神様のように思えてくる。

病によって頭部をきちんと支えられないせいで
   偶然に私を発見した少年は
      身をもって私に生きることの厳しさを示しつつ
         覚悟はできているのかと執拗に問い掛け、

そのたびに私は
   「見ての通り
       完璧な生を着実に営んでいるところだ」と答え、

すると
   完璧には程遠い姿の病児は
      いささか皮肉な調子で
         「初めのうちは皆誰でも
             そう言うのさ」と呟き、


(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』97ページ)

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