丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月十六日「私は卵だ」を読む
草の葉の裏に産みつけられた卵。
誰も気がつかない小さな卵も「重力波の影響下にあり」「生と死の順逆を誤ることも」ない。
そんな小さな存在を慈しみ、思いを寄せるところに丸山先生らしさを感じる。
やはりこの小さな卵に気がつくのが、少年世一だ。
卵を問い詰める世一が、この世の神様のように思えてくる。
病によって頭部をきちんと支えられないせいで
偶然に私を発見した少年は
身をもって私に生きることの厳しさを示しつつ
覚悟はできているのかと執拗に問い掛け、
そのたびに私は
「見ての通り
完璧な生を着実に営んでいるところだ」と答え、
すると
完璧には程遠い姿の病児は
いささか皮肉な調子で
「初めのうちは皆誰でも
そう言うのさ」と呟き、
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』97ページ)