丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月十八日「私は弁当だ」を読む
手作りの弁当を貪る土木作業員。
その嬉しそうな様子を観察しながらも、丸山先生の視線はシビアである。
私はそんなかれらに
酷使されて搾取されていることを束の間忘れさせ、
ついでに
自慢の肉体が思い通りにならなくなる日が必ずや訪れる事実を
現実から切り離し、
果ては
死の宿命から遠ざけてやる。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』102ページ)
ひとりものの作業員がパンを食べていると、仲間は早く結婚すればいいと勧める。
そう言われた独身青年の抱えるネガティブ感、虚無感。
どんな人の心にも巣食うこうした感情を見つける丸山先生。
そうした視点に自分と心分つ存在がいることに気がつき、救われる思いをする読者は少ないかもしれないが、確実にいるのだと思う。
自分はもう何も要らない
自己自身ですら要らないくらいだから
連れ合いなどまったく無用だ、
おのが命も要らなければ
この世も要らず
当然あの世も要らない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』105ページ)