丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月十九日「私は風鈴だ」を読む
世一の姉の婚約者・ストーブ作りの職人が収入を得るために始めた風鈴づくり。
評判はよくどんどん売れてゆく。
だが、ある時からパタっと売れなくなる。
その事情を分析するストーブ作りの男の目、すなわち丸山先生の目。
人間の心情の嫌なところをついているようだが、真実なのかもしれない。
だが世一のことを世間が知ると、また風鈴は売れるようになる。
人間とは何とも嫌な存在だと思う。
ほどなくして製作者は
事情をすっかり理解し、
要するに
客が気に入らなかったのは
私そのものではなく
私が呼びこむささやかな収入で、
あるいは
私がもたらした世間並みの幸福のせいかもしれず、
これまで不幸の影を宿していた者が
伸びる売り上げのせいで笑顔が戻ったことを
単なる凡人の証しと受け止め、
そして
嫉妬したのだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』108ページ)