丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月二十日「私は三叉路だ」を読む
まほろ町の外れで「通りがかる者にいちいち詰問してやろうと 手ぐすね引いて待ち構える」三叉路が語る。
丸山先生の人生への想い、葛藤、生き方が伝わってくるような文が散りばめられている。
三叉路が通りがかる人に浴びせる質問はただ一言「幸福か?」
頷く者には
実際には
ただ生きているから
仕方なく生きつづけているのではないのかと畳みこんでやり、
そんな相手の生の在り方の非を咎め
いつ頃から
なぜそうなってしまったのかと問い詰め、
その場逃れの言い訳もできず
茫然と立ち尽くしている者に対して
「右にするのか
左にするのか?」と
そう迫ってやった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』112ページ)
最後のところで、どうやら丸山先生らしい「熊の仔にそっくりなむく犬を連れた男」が出てきて、三叉路の問いに答えてこう呟く。
少し離れたところで観察しながら書き続けている丸山先生らしい答えだなあと思う。
滅多なことは言えないと呟いてから
右も左も選ばず
さりとて引き返すわけでもなく、
生きているだけでも大したことだと感服せざるを得ない
かの少年世一の後を追って
かたわらに広がる薮の奥へと姿を消した。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』113ページ)