丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月二十五日「私は怪雨だ」を読む
どこかSFチックな、怪奇めいたところがある箇所である……
私は怪雨だ、
人々の不安やら虫の知らせを核にして
うつせみ山の麓に扇状に広がる新開地を容赦なく叩く
色付きの怪雨だ。
私は野路に咲き乱れるスミレの花を赤く染め
高い杉によじ登って枝打ち作業に精を出している男の顔面も
やはり同じ色に染め、
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』130ページ)
老いた樵は「こんな雨は初めてだ 地球が血を噴いている」と言って立ち去る。
そしてそんな言葉から、壊されてゆく環境へ丸山先生が警鐘を鳴らしているようにも思える。
樵と働いていた若者は血の色に塗れながら踊る。
だが怪雨はそんな若者にしらける。
やがて青づくめの世一が近寄ってくると、本来の色に戻ってゆく。
弱いはずの世一が、自然の姿を本来のものに戻す……という結末は、考えさせるものがある。
私の方は逆に白け
青色を好む少年の出現を契機に
本来の無色透明に戻っていった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』133ページ)