丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より六月二十七日「私は目先の欲だ」を読む
まほろ町の小さな図書館に勤める世一の姉。
その姉をつかまえ、リゾート開発計画反対派の元大学教授が頼む。
世一一家が住む丘を売り払うのはやめるように、父親に説得してくれないかと。
姉は、私も売り払いたいと思う……と断ると、大学教授はこう語る。
大学教授に言い返す世一の姉の鋭さ。
「わが同士や仲間たちが 生き生きと飛び跳ねていた」という目先の欲が、やけに美しくユーモラスに感じられてくる不思議さを思う。
私に取り憑かれていると
そう決めつけられた女は
人は皆そうやって生きているのだと切り返し、
「先生だって老後の生き甲斐のためにそうしているだけで
本音としては田舎町の未来などどうだっていいんでしょ」と言うや
男はぴたりと口を閉ざしてしまい、
彼がとぼとぼ帰って行く湖岸野処々方々では
薫る風や光る水といっしょに
わが同士や仲間たちが
生き生きと飛び跳ねていた。
( 丸山健二『千日の瑠璃 終結7』141ページ)