丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月三日「私は嫁入り道具だ」を読む
世一の姉がストーブ作りの男の家に運び込んだ嫁入り道具が語る。
前妻の記憶が染みついている家財道具は処分され、嫁入り道具に囲まれた男。
その正直な言葉は、結婚によって失われがちな自由というものをよく語っている気がする。
「またしても出発点を誤ったのでは」という不安は「懐かしい不安」という言葉に、人生ってたしかにそういうものなのか……と苦味を感じる。
そんなことを言いながらも
いざ私に取り囲まれると
ある種の圧迫を感じて
自由がじわじわと蝕まれてゆくように思い、
しまいには
またしても出発点を誤ったのではないかという
懐かしい不安を覚えずにはいられない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』164ページ)