丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月五日「私は現世だ」を読む
現世の活気と生命にあふれる以下の描写が続いた後、それとは真逆の辛さ、暗さに満ちた現世の描写がくる。
丸山作品はこの世の暗さ辛さをよく見つめているからこそ、以下の文は輝くのだなあと思う。
暗さ辛さから目を逸らしたまま、明るさ活気だけを描いた作品にはない引き込む力がある。
野辺に繁茂する雑草と咲き乱れる千草
樹陰にゆったりと巨体を横たえてくつろぐ白と黒のまだら模様の牛たち、
そこかしこに飛び交う若やいだ声
彼らの健やかな流汗
川尻に仕掛けられた梁のなかで踊る銀鱗、
斜光が長い影をもたらす草むした墓地
世界をろくに知らなくても幸福な者たちの気配、
開店と同時に引きも切らずに客が詰めかける
立派な構えの和菓子屋、
それらは私の一部でありながら
全体そのものである。
( 丸山健二『千日の瑠璃 終結7』171ページ)