さりはま書房徒然日誌2025年10月21日(火)

丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月六日「私は墓石だ」を読む

散文とは人間の思いがけない面、理性では説明できない面を抉るものかもしれない……

「私は墓石だ」の箇所を読み、そんなことを思った。

「生前は身持ちが悪かったという しかし 見掛けは咲き分けのアサガオのように楚々とした風情」の女の墓に、亭主がやってくる。

静かに野の花を手向けるところまでは、普通である。

だが……

死んだ女の亭主は
   おもむろに紙袋からひと抱えもあるスイカを取り出し、

それを頭上に高々と差し上げるや
   力いっぱいに私に叩きつけ、

「てめえの好きだったスイカだ!
    好きなだけ食らえ!」と
       そう怒鳴った。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』175ページ)

あっけにとられるが、以下の文に亭主の死んだ女への想いが色々想像されてくる。

ついで男は
   口元にすこぶる残忍な笑みを浮かべ
      ほどなく忍び笑いを始め
         やがて高笑いに移行し、

乾ききった笑声は
   墓地全体に空しく響き、
      灰塵に帰した死者の影に撥ね返って
         むしろ嗚咽の声に変わった。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』176ページ)

(桔梗のつもり)

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