丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月六日「私は墓石だ」を読む
散文とは人間の思いがけない面、理性では説明できない面を抉るものかもしれない……
「私は墓石だ」の箇所を読み、そんなことを思った。
「生前は身持ちが悪かったという しかし 見掛けは咲き分けのアサガオのように楚々とした風情」の女の墓に、亭主がやってくる。
静かに野の花を手向けるところまでは、普通である。
だが……
死んだ女の亭主は
おもむろに紙袋からひと抱えもあるスイカを取り出し、
それを頭上に高々と差し上げるや
力いっぱいに私に叩きつけ、
「てめえの好きだったスイカだ!
好きなだけ食らえ!」と
そう怒鳴った。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』175ページ)
あっけにとられるが、以下の文に亭主の死んだ女への想いが色々想像されてくる。
ついで男は
口元にすこぶる残忍な笑みを浮かべ
ほどなく忍び笑いを始め
やがて高笑いに移行し、
乾ききった笑声は
墓地全体に空しく響き、
灰塵に帰した死者の影に撥ね返って
むしろ嗚咽の声に変わった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』176ページ)

(桔梗のつもり)