さりはま書房徒然日誌2025年10月25日(土)

丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月九日「私は泣き寝入りだ」を読む

土蔵に無断で暮らしていた若者。

ある日、突然、土蔵が取り壊されてしまい、若者は慌てて逃げ出し、別荘地を突っ切り、うたかた湖に飛び込む。

丸山作品で無人のボートは幾度も出てくるように思う。
大町にはありがちな風景なのかもしれない。
だが丸山作品では、田舎のありふれた風景が別の色合いを帯びてくるように思える。

この場合も若者を救ってくれながら、この世のしがらみがない存在として不思議なイメージを喚起する。

そして
   おのれが泳ぎ疲れるのを待ち
      湖底へ沈んで行く運命を待ち、


ところが
   期待した事態は訪れず、

ほどなくして
   彼の手は無人のままさまようボートに触れ、


それに這い上がった彼は
   おのれの荒い息遣いや
      土蔵が抹殺されてゆく轟音や
         片丘から届くオオルリの声に聴き入った。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』189ページ)


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