丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月十一日「私は農薬だ」を読む
刑務所から出所した後、錦鯉を育てて静かに暮らす世一の伯父。
リゾート開発のための立ち退き交渉にも応じないで、静かに暮らそうとする。
だが相手は極道者たちを使って、錦鯉の池に農薬を放り込む。
たちまち死んでゆく錦鯉。
世一の伯父は背後に蠢く輩を察して、怒りにかられる。
以下引用文。その心情の変化が色に託され、見えない感情が見えてくる気がしてくる。
すると
彼の胸に
川面を埋めて流れる紅葉やら
陣頭に立って殴り込みを掛けてきた相手を
一刀のもとに斬って捨てた
若き日の重大な過ちやらがいっぺんに甦り、
無色へと戻りつつあった心が
みるみる朱に染まり、
かつてきっぱりと否定した
殺られたら殺り返すという
単純明快な力学が頭をもたげた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』197ページ)

(逆風と戦う笹のつもりが、逆風にみんなで回れ右しているような笹になってしまった。でも絵は風の優しさ、厳しさを表現しようとする、のが面白い)