丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月二十八日「私は蛾だ」を読む
以下引用文。少年世一がしゃがみこんで、その背中に蛾がとまった……という場面。普通ならそう書くだろう。
でも、その一瞬に世一の、蛾の、存在を問いかける眼差しが丸山文学の魅力なのだと思う。
そんな一瞬に意味をもたせてもうるさくならない。
それは「おのれ自身の薄い影にじっと見入り」とか
「蝶などには決して味わえないであろう 日陰者としての安らぎ」
という言葉に共鳴したくなるものがあるからだろう。
ただし共鳴しない人が殆どの世、だとは思うが。
暗夜に輝く蛍火の群舞を堪能するまで見物した後
その少年は今
街灯の真下にしゃがみこんで
おのれ自身の薄い影にじっと見入り、
そして私は
そんな彼の背中にべったりと張り付くことで
蝶などには決して味わえないであろう
日陰者としての安らぎを得ており、
そこは自分にとっての
究竟の隠れ家である。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』262ページ)