さりはま書房徒然日誌2025年11月11日(火)

丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月二十八日「私は蛾だ」を読む

以下引用文。少年世一がしゃがみこんで、その背中に蛾がとまった……という場面。普通ならそう書くだろう。

でも、その一瞬に世一の、蛾の、存在を問いかける眼差しが丸山文学の魅力なのだと思う。

そんな一瞬に意味をもたせてもうるさくならない。

それは「おのれ自身の薄い影にじっと見入り」とか
「蝶などには決して味わえないであろう 日陰者としての安らぎ」
という言葉に共鳴したくなるものがあるからだろう。


ただし共鳴しない人が殆どの世、だとは思うが。

暗夜に輝く蛍火の群舞を堪能するまで見物した後
   その少年は今
      街灯の真下にしゃがみこんで
         おのれ自身の薄い影にじっと見入り、

そして私は
   そんな彼の背中にべったりと張り付くことで
      蝶などには決して味わえないであろう
         日陰者としての安らぎを得ており、
         そこは自分にとっての
            究竟の隠れ家である。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』262ページ)

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