さりはま書房徒然日誌2025年11月13日(木)

丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より七月二十九日「私はダリアだ」を読む

旅館の女将と長身痩躯の青年はダリアを眺める……

ダリアには可哀想だが、人工的なところのある花にふさわしい描写。

そんな作り物めいた花を見つめている男女の関係、行く末を暗示するような文である。

「男と女がダリアを見ていた」の一文で終わりそうな文に、これだけ含みを持たせ、この後も続いていく。

映画なら一瞬の場面が、言葉を使う表現でかくも広く、深くなるのかと思った次第。

転作を余儀なくされた農家の苦肉の策から生じた私は
   結局のところ出荷されぬまま
      周囲を暗くさせるほどの明るさでもって
         徒に浮き立ち、

しかも
   せせらぎの音と野鳥たちの声を
      幸福もどきの色で染めあげる。

そんな私を見ている両人には
   ひよっとすると
      ただそうやって生きているだけでも間違いではないという
         まばゆい印象の暗示を与えやり、

のみならず
   存外いい組み合わせのかれらのあいだを
      上手く取り持つ役まで果たそうとしている。


 (丸山健二『千日の瑠璃 終結7』266ページ)

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