丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より八月十四日「私は長談義だ」を読む
若き僧侶とその雇い主であるボート小屋の親父の間でかわされる「湿って濁った断片的な言葉」
二人は豪雨のあと、周囲の伐採された山から土砂が流れ込み濁ったうたかた湖を眺めながら会話する。
モノトーンの墨絵の世界が似合いそうな会話に、「揚げパンを頬張っては牛乳を飲み」という現実感あふれる文がリアリティを添えている。
丸山先生が書く食べ物は、本当に日常にあるありふれた食べ物だけだ。
そのせいで作品の世界がとても近くなる気がする。
僧侶は
この湖はもうじき死ぬと言い、
おやじは
この世に死なないものなどはないと言ってから
問題なのはその死に方であって
これは最悪の末路であると決めつけ、
ついでふたりは
昼食の揚げパンを頬張っては牛乳を飲み
遣る瀬ないその視線を
湖面からおのが内面へと移して
似たようなため息を漏らした。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』330ページ)
