復讐をめぐって個人への情熱が機能することが知られているのは、相手を侮辱したり傷つけたりすることが危険なものだからである。復讐をめぐって社会への情熱が機能することが知られているのは、正義の保護者としての役割があるからであり、その情熱が誰にでも等しくむけられるからである。これから示すように、復讐をめぐる情熱というものは重要なのである。しかし、そうでありながら、情熱そのものは不快なものである。そこで他のひとのなかに情熱というものがあらわれると、嫌に思う対象になるのは自然である。何らかの体の現状にむかっての怒りの表現が、露骨なほのめかしをこえるものであり、その表現がまちがっていると思えるものだとしよう。その場合、特定のひとを侮辱しているとみなされるだけでなく、すべての仲間に無礼をはたらいているものとしてみなされる。仲間を敬う気持ちがあれば、荒々しく騒々しい感情にかられることもないはずだし、不快な気持ちになることもないはずである。だが、実際にはそうした感情にかられた。こうした情熱の結果が、遠くはなれたところで起きることは好ましい。間近なところで起きる出来事というものは、あらがいながらもその出来事へ導かれる人にすれば、害となるものである。想像力に働きかけて、対象を好ましいものにしたり、あるいは嫌なものにしたりするものとは、身近な出来事である。けっして遠く離れた出来事ではない。例えば監獄は、宮殿よりも役に立つ。宮殿を建設する者は一般的に、監獄を建設する者よりも、愛国心からなる闘争心に導かれる。しかし監獄の影響とは、即効性のあるものであり、監獄のなかに閉じこめられた悲惨な境遇にある人に怖気をふるうものである。想像力のせいで遠く離れた監獄もたちどころに思い描くことができる。そして監獄に影響をうけながらも、遠く離れたものとして監獄を見ている。それゆえ囚人とは常に嫌な対象だろう。目的どおりに機能すればするほど、監獄は遠くから思い描くものとなる。監獄とは反対に、宮殿とは常に好ましいものである。だが、その遠く離れたところからの影響は、人々にとって、しばしばよろしくないものなのかもしれない。宮殿とは贅沢をすすめるものになるかもしれないし、またマナーが崩壊した例となるかもしれないからだ。しかしながら宮殿の効果のなかでもすぐに見いだされるものがあり、それは宮殿内で暮らす人々の衣食住の便であり、喜びであり、陽気さなのである。その効果は好ましいものであり、想像力に心地よい考えをたくさん吹き込む。すなわち宮殿に暮らす人々には能力があり、さらにもう少し先の結果を追いかけようとする気持ちにはめったにならない考えである。絵画や漆喰で模倣された楽器や農作業の道具などの装飾品はよく見かけるものであるが、ホールや食堂の感じの良い装飾品である。同じような装飾品でも、外科手術や解剖のための器具、切断ナイフや骨を切断したり頭蓋骨をひらくためのノコギリなどを題材にしたものもあるが、そうしたものは理性に反するものであり衝撃的なものである。しかしながら農具よりも、外科手術の器具のほうが常によく磨きこまれ、本来の目的の意図にあうように準備してあるものである。間接的な効果ながら手術の道具には、患者の健康に好ましい効果がある。しかし、すぐにあらわれる効果とは苦痛であり、苦しみである。手術道具を見ると、私たちはいつも不愉快になる。戦争の道具も好ましいものである。だが、その目に見える効果とは、外科手術の器具と同様に痛みであり、苦しみである。しかし、それは同時に敵の痛みであり、苦しみであるが、その敵に同情することはない。私たちについて考えてみれば、戦争の道具が直接結びつくものとは、勇気、勝利、名誉についての考えであり、好ましい考えである。戦争の道具とは、衣装のなかでも最も高貴なものであると思われているし、戦争の道具を真似たものは建築のすばらしい飾りの一つだと思われている。心の本来の特質も同様である。古代のストア派の考えでは、賢く力があって善良なる神のもとで、世界はすべて統治されている。だから、すべての出来事は宇宙をかたちづくる必要な計画の一部分であり、全体の秩序や社会全体の幸せを推進する傾向があるものとしてみなされている。そこでは、人類の悪徳も愚かさも、宇宙をかたちづくる計画において必要なものである。同じようにして知恵も徳も、また必要なものなのである。このようにして悪から善をひきだす永遠の芸術とは、自然の偉大なはたらきを完璧なものにするし、また同じようにして繁栄したものにもする傾向がある。しかしながら、こうした類の思索がどれほど深く心に根ざしていようとも、悪徳にたいして自然にいだく嫌悪を減らすことはできない。悪徳の目に見える効果とは破壊的なものである。そして間接的な悪徳の効果もはっきりしているから、想像力で追いかけることができるものである。(1.Ⅱ.24)
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